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マチ

くくくく。と笑いながら、クロロが珈琲を飲んでいる。

「面白いやつだな。そんなに怖がるぐらいなら、仕返しをしなければいいと思うのだが」
「それとこれとは話は別!」
「らしいな」

 苦笑でクロロは返す。
 時に、オレとシャルナークは「トムとジェリー」のような関係に陥る事がままある。何かをやられたら仕返す。というやつだ。
 最初はそれなりに、気には……かけていなかったかもしれないが、最近は完全に放置だ。

「これは戦争なのだ」と某アニメの少佐バリの台詞を吐いたところで、取り合ってももらえない。こっちは本気なのに!

 話がずれた。
 とりあえず現状のオレのことに話を戻そう。

 高いパソコンの慰謝料とばかりに、仕返しを決意したオレは、クロロに了承をとってから(敵対の意志がないことを証明するためである)シャルナークへ嫌がらせを開始した。
 実際目の前にたてば、間違いなく負けると自負するオレであるが、幸いコンピューター技術に関しては頭ひとつ分勝てている。
 そこをついて嫌がらせをするのだ。すなわち、彼の動きを賞金稼ぎのお兄さん達にばらしたり、嘘の情報をこっそり忍ばせたり、まあやり方はその都度で変わる。

 今回は、シャルの仕事中にちょっと警報が誤作動しちゃったね。てへ。みたいな状況を楽しく創りだしてあげた。
 旅団への敵対行為に見えるかもしれないが、クロロの了承済みの出来レースである。その辺りは問題ない。なぜか誤作動が、シャルの行く先々で起きるとか楽しいレースが始まりまして、楽しくその様子を監視カメラで見ながら祝杯を上げた。もちろん録画しましたとも!

 だけど、楽しかったのだけど……。シャルナークも何気に凄腕のハッカーである。時間はかかったが、オレにたどり着いてしまったわけである。
 一応住居は移しているのだが、バレるのは時間の問題だ。
 なにせクロロにはこの顛末を教えて、場所も知っていて、のんきに珈琲を飲んでいるわけで。

 死刑執行前の囚人のごとく怯えているのが、現状のオレだったりする。

「そもそもね。オレが怖がっているのを楽しんで、この場所に入り浸るクロロの性格も何とかしたほうがいいと思うよ!」

「言ってる事がわからないな」

「人はそれを、白々しいっていうんだよ。すべてが計算ずくの行動のくせに」

「ひどい言われようだな。いつでも珈琲を飲みに来いというから、来てやっているというのに」

「飲めば出て行けばいいのに、このタイミングで居続ける意味を考えろっていうんだ。今からでもいい。うんそうしよう。出て行ってもいいよ」

 よし、追いだそう。
 としたところで、無情にも玄関のチャイムがなる。

「うっ」

「残念だったな」

 ダレのせいだ。
 そう言いたい。時間切れの合図なのだ。自分が固まっていると、クロロは玄関をカチャリと開けた。

「今回は遠い場所に逃げたものだね」

 女の声が聞こえる。カローンの声だ。

「マチありがと。らーくーるー! いるんだろ! 分かってるんだからね!」

 そしてハデスがごとく、悪魔の声が響き渡る。
 オレは窓へと飛び出した。長い追いかけっこの時間が始まる。

「マチのバカああああああああああ!」
「はいはい。逝っておいで」
「漢字のニュアンスが違うだろおおおおお」

 呆れたマチの声の前に、黒いかげろうを立ち上らせるシャルナークの姿が見える。今日の夜は長くなりそうだ。涙をうかべ、闇の中を疾走すべく飛び跳ねた。



 マチは、クロロの居場所がわかる。
 クロロはオレの居場所を知っている。了承を取り付ける時にすべてを洗いざらい吐いてるからだ。
 そして嫌がらせが無事成功すると、クロロは決まってオレの場所へと居座るのだ。
 シャルナークはオレのしわざだと分かっても、居場所を突き止めるには、今一歩足りない。その穴を埋めるためか、彼は居座る。
 だからシャルナークは、オレの場所を知りたければマチを頼ればいいのである。
 結果、マチはオレからこっそり、こう呼ばれている。
 冥府の渡し人、カローンと。

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